シェアリングエコノミー(共有経済)という新しい概念は、21世紀初頭にアメリカ・シリコンバレーから生まれました。物やサービスを所有して自分だけで利用するのではなく、インターネットを介して情報を共有することで、必要な人が必要な時に必要なモノやサービスを利用できるという新しい経済概念が、シェアリングエコノミー(Sharing Economy)で、日本語では「共有経済」と呼ばれます。初期投資(購入費)や維持費といった、所有するために生じるコストを削減できる画期的な概念といえます。
個人間でモノやサービスをやり取りすることは昔から行われていましたが、インターネットとインターネット上での個人間の情報共有を可能とするSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の発達により、不特定多数の人との間でこのようなやり取りが可能になったことが、シェアリングエコノミーという用語が生まれた背景にあります。さらにスマートフォンが普及して、位置情報の認識と即時決済が随時可能となったこともシェアリングエコノミーサービスの普及拡大に大いに寄与しています。
政府は、「未来投資戦略 2017 -Society 5.0 の実現に向けた改革-」の中で、シェアリングエコノミーを「十分に使われていないモノ、空間、知識・知恵、技能等の遊休資産を ICT の活用によって共有する幅広いビジネス」と定義し、「新たなビジネス領域の創出による我が国経済の活性化や国民生活の利便性向上、新しい生活産業の実装による地域経済活性化に寄与することが期待」されるとしています。つまり政府はシェアリングエコノミーを、Society 5.0時代における様々な新ビジネスを生み出す重要な概念のひとつと捉えているのです。
シェアリングエコノミーがビジネスである所以は、遊休資産の提供者(ホスト)と享受者(ゲスト)をインターネット上のプラットフォームを介して仲介する業者(プラットフォーマー)がいて、ホストは遊休資産を売る・貸すことで対価を得ることができ、ゲストは購入・保持するよりも安価にモノやサービスを活用でき、プラットフォーマーは仲介手数料を得ることができるという三者三様のメリットをそれぞれが享受するというビジネスモデルが成り立つからです。
レンタカーやカーシェアリング、工具や機械などのレンタルサービスといった、業者(場合によっては自治体などの組織体)がモノの提供者であるレンタルサービスやシェアリングサービスは、シェアリングエコノミーには該当しません。
例 タイムズカープラス:カーシェア
オリックスカーシェア:カーシェア
COGICOGI:シェアサイクル
COGOO:シェアサイクル(大学向け)
シェアリングエコノミーはあらゆる資産領域で成立し得ます。ヒト・モノ・カネに分けて整理してみましょう。(リスト上のサービスは、2018年6月時点でアクティブなものです。)
【ヒトのシェア】
ヒトのシェアには、専門知識・知恵・技術といったスキルが必要なタイプと、特段のスキルを必要としないがマンパワーが必要というタイプがあります。
ヒトのシェアリングエコノミーはクラウドソーシングとも呼ばれます。
・非専門家タイプ
タスカジ(taskaji):家事代行サービス
casy:家事代行サービス
A-s-Mama:子育てシェア
KIDSLINE:ベビーシッターサービス
ANYTIMES:ご近所助け合い
DogHuggy:ドッグシッターを探せるサービス
ココナラ(coconala):みんなの得意を売り買い(スキルのフリマ)
タイムチケット:個人の時間を30分単位で売買
CrowdWorks:クラウドソーシング全般(スキルマッチング)
ランサーズ:クラウドソーシング全般(スキルマッチング)
・専門家タイプ
マイシェフ(mychef):出張シェフ(東京・横浜)
KitchHike:ごはん会の主催・参加
tadaku:外国家庭料理教室
SKET:資料の作成代行(デザイナーのクラウドソーシング)
viibar:動画制作代行(動画クリエイターのクラウドソーシング)
nutte:縫製職人のクラウドソーシング
bizer:バックオフィス業務(総務・労務・経理)のクラウドソーシング
Gozal:労務管理のクラウドソーシング
弁護士ドットコム:法律相談サービス、弁護士検索サービス
Huber:通訳ガイドマッチングサービス
通訳案内士ドットコム:通訳案内士のクラウドソーシング
ビザスク(visasq):スポットコンサル(コンサルタント検索サービス)
TABICA:旅の体験提供・予約サイト
【モノのシェア】
モノのシェアには、物理的なモノや、土地・建物などの空間(スペース)、設備機械、ライドエコノミーなどの移動サービスなどが含まれます。
物理的なモノのシェアリングにはマーケットタイプ(フリマ)とレンタルタイプおよびオークションタイプがあります。
・物理的なモノ
airCloset:女性ファッションのレンタルサービス
Laxus(ラクサス):高級バッグのレンタルサービス
メルカリ:オールジャンルのフリマアプリ
ラクマ(旧フリル):楽天が提供するフリマサービス
キャリーオン:子供服の買い取りサービス
ショッピーズ:女子向け商品のフリマサービス
ヤフオク:ヤフーが提供するオークションサービス
Ancar:中古車の個人売買マーケットプレイス
ALLSTOCKER:建設機械・重機のオンラインマーケットプレイス
ジモティー:地元の無料掲示板
・スペース
airbnb:世界各地の民泊予約サービス
TOMARERU:日本の民泊予約サービス
STAY JAPAN:日本の民泊予約サービス
軒先パーキング:駐車場のシェア
akippa:駐車場のシェア
スペースマーケット:映画館や結婚式場などの空いてる時間をシェア
Spacee:貸会議室・レンタルスペースのシェアリングサービス
お寺ステイ:お寺の体験・宿泊予約サイト
・設備
ラクスル:印刷機器の空いてる時間をシェア
ハコベル:配送のシェアリングサービス
sitateru:縫製工場の空いてる時間をシェア
・移動
UBER:配車のシェアリングサービス
notteco:長距離相乗りシェアリングサービス
Anyca(エニカ):個人所有車のカーシェアリングサービス
カフォレ(CaFoRe):個人所有車のカーシェアリングサービス
【カネのシェア】
融資者を募るクラウドファンディングは、余剰のお金をシェアするという意味でシェアリングエコノミーの一種と言えましょう。クラウドファンディングサービスにはいろいろな種類があります。
Makuake:サイバーエージンエト系のマクアケ社が運営する購入型クラウドファンディングサービス
READYFOR?:国内初の購入型クラウドファンディングサービス
JAPANGIVING:寄付型クラウドファンディングサービス
FAAVO:地域活性化クラウドファンディングサービス
Crowd Realty:不動産に特化した投資型クラウドファンディングサービス
など、クラウドファンディングサイトは多数存在します。
ふるさとチョイス:ふるさと納税も一種のクラウドファンディングと言えます。
(注)以下の記事は、株式会社ガイアックスが運営するSharing Economy labの「事業者は押さえておきたい、シェアリングエコノミーが抱える課題と対応策まとめ」という記事を参考にしています。
シェアリングエコノミーは、個人間レベルで遊休資産を活用できる新たな経済システムで、その効用は以下の点があります。
・遊休資産の活用
車・土地・宿泊場所・使っていない道具をレンタルしたり、車の相乗りやオフィスや自宅の余っているスペースをシェアしたり、自身のスキルや時間を提供するなど、これまで注目されていなかった「遊休資産」が、プラットフォームを通じて、新たな価値を持ち、必要とする人へ提供されます。
「金額が高すぎる」「業者に依頼するほどの規模ではない」などの理由で購入や利用を躊躇していたサービスが、より安価で使いやすい仕組みで提供されるようになるとともに、遊休資産を提供する側も、今まで余っていたものを使って副業や商売ができ、両者にとってwin-winの関係が成立します。
・.地域課題の解決
シェアリングエコノミーは、社会課題・地域課題を解決する重要な役割を担っています。
不用品の売買やライドシェアの活用は、廃棄物の減少や環境への負荷の軽減に繋がります。スキルシェアサービスの活用が進めば、既存の雇用形態での労働が難しい人が仕事を得られたり、気軽に育児や家事の代行を依頼できたりします。
地方創生の面では、宿泊、体験など観光客呼び込みの起爆剤として、地方自治体と連携し、社会問題を解決する一手としても注目されています。また、個人レベルのライドシェアが過疎地域の交通手段として機能する可能性もあるのです。
・新たなつながりや関係性が誕生
シェアリングエコノミーサービスでは、単にサービスを提供、享受するだけの消費を超えた、利用者同士のつながりや関係性が構築されるという副産物も生まれています。
例えば、中長距離の相乗りサービスを提供するnottecoでは、ドライバーと目的地までの交通手段を探している人をマッチングしますが、「同乗中のコミュニケーション」が付加価値になっています。現地での観光地の情報をシェアしたり、一緒に食事をしたり、世間話をしたりなど、人と人とのつながりが構築され、新たな出会いや交流が生まれることが魅力です。サービスを受ける側、提供する側に分断されるのではなく、シェアをしているメンバーとしてコミュニケーションが生まれるのです。
シェアリングエコノミーは、急速に拡大しつつあるため、以下のように、サービスの質や法整備がまだまだ追いつけていないという問題があり、プラットフォームごとに安全性を高める取り組みをしたり、行政が法整備に取り組んだり、多くのプレイヤーが課題解決に向けて動いている最中にあるといえます。
・課題1 安全性の担保
シェアリングエコノミーサービスの場合、サービス提供者は企業ではなく、素性やバックグラウンドがはっきりしない個人となります。そのため、提供されるサービスのクオリティにバラつきが大きかったり、マナーの悪い利用者によるトラブルに巻き込まれたりする可能性があります。実際に、民泊で部屋を貸し出したら荒らされた、Uberの運転手とトラブルになり暴行を受けたなど、あらゆるトラブル事例が世界各国で報告されています。
また、個人間取引のため、事業者のように安全・安心に配慮した取り組みは、まだまだ不足していると考えられます。例えば民泊であれば、ホテルや旅館は旅館業法に則って一定の安全性が担保されているのに対し、一般的な住宅に宿泊する場合、どの程度の安全性が確保されているのかはわかりません。
トラブル対応への不安を抱えるのは、サービス提供者・利用者だけではありません。それ以外の人たちに悪影響をもたらすケースも出てきています。例えば、民泊を提供するAirbnbなどで発生しているトラブルとして、騒音やゴミの廃棄など、利用者がルールを守らず、ほかの住民に影響を及ぼしています。
家事代行や、駐車場のシェアなども、普段見ない人や車両が出入りするため、シェアリングエコノミーを知らない近隣住民にとっては、安心できる生活環境を脅かしてしまうのです。
・課題2 保険・補償制度の整備
シェアリングエコノミーを利用した際に事故やトラブルが発生した場合、既存の保険では対応してもらえなかったり、プラットフォームが定める補償の範囲が不明確だったり、満足な補償を受けられない可能性があります。まだまだ新しいビジネスであるため、想定外のトラブルも発生しており、対策が追いついていない面もありますが、そういった状況に対して、民間の保険会社がシェアリングエコノミー向けの保険商品を登場させるなど、徐々に新しい動きが出てきています。
・課題3:法整備・規制、既存事業者との対立
新しいがゆえに、法整備がまだまだ整っていないのがシェアリングエコノミーの現実です。サービス提供者は、法人ではなく、個人であるため、既存の事業者向けの法律がどのように適応されるのか、どうしたら違法なのかが不明確です。そのため、グレーゾーンの事業やサービスとして運用されています。
シェアリングエコノミーは既得権益を得ている事業者を脅かす存在でもあり、既存業者との対立がサービスの浸透に影響を与える場合も多くあります。
例えば、ライドシェアのUberは、様々な国から受け入れを拒まれています。既存の公共交通機関やタクシー業者の利益を守るため、Uberの運用に規制がかかり、実質Uberの利用が不可能になる国もあります。イタリアでは、不当競争を理由に営業停止となりました。なお、Uberの営業停止の背景としては、既存業者の保護だけではなく、無許可で運送事業を行っている白タク行為として認められたため、営業停止に至ったという理由もあります。
政府はシェアリングエコノミーを推進する立場をとっており、法整備を進めようとしていますが、まだまだ不十分な状況だと言えるでしょう。
厳しく法規制しすぎるとサービスの拡大が妨げられてしまい、シェアリングエコノミーの恩恵が受けられなくなってしまいます。とはいえ既存事業者への配慮を欠けば、社会的な反発は避けられません。規制緩和や条例、ガイドラインの策定など、バランス感を持った法整備が求められます。
・課題4:サービス提供者への課税
サービスを提供する個人にとって、シェアリングエコノミーは新たな収入源です。しかし、個人が得た利益へ正しく課税されているか不安視されています。確定申告の習慣がない個人の場合、企業よりも納税意識が低い可能性もあります。
日本ではようやくシェアリングエコノミーの課税漏れが話題に上るようになりましたが、まだ政策の検討が始まった段階です。海外ではプラットフォーム事業者に課税をする例が主流となっており、日本でもそのようなケースを参考にすると見られています。
・課題5:デジタルデバイド(デジタル格差)
シェアリングエコノミーと切っても切れないものが、テクノロジーです。サービスを利用するためPCやスマートフォン、インターネット環境が必要です。そのため、デジタルデバイドの問題も指摘されています。デジタル機器の所有状況やリテラシーによって、得られる情報や機会に格差が生じてしまうのです。
シェアリングエコノミーは、収入の少ない個人が副収入を得るための手段となったり、日常の助けを必要としている高齢者がより低価格でサービスを受けられたりと、幅広い層にとって恩恵があるものです。
デジタルデバイドによって機会を奪われている人でもシェアリングエコノミーを利用できるような環境をつくっていく必要があるでしょう。
・課題6:個人の抵抗感
「個人の抵抗感」もシェアリングエコノミーが抱える課題のひとつです。シェアリングエコノミーになじめない、抵抗がある、受け入れられないという問題です。
民泊サービスに対する認知度・利用意向調査を諸外国と比較したところ、認知度は他国とさほど大きな違いはありませんが、圧倒的に利用意向が低くなっています。デジタルネイティブ世代と言われる、20代、30代の利用意向も40%を切っており、民泊に対して抵抗があることがわかります。
その背景としては、ただ単に抵抗感がある、というのではなく、シェアリングエコノミーのメリットや、どんなサービスが享受できるのかが理解されていないことが考えられます。また、事業者からのサービスの方が、安心できるといったことも挙げられます。
事業者や自治体がカバーしきれないニッチなニーズや、小規模なサービスなど隠れたニーズを埋めていくシェアリングエコノミーは、様々な層が活用すべきサービスプラットフォームでもありますので、サービス利用によって得られるメリットや安全性を高める取り組みをPRし、新しいサービスを受け入れられる土壌を整えていくことが重要です。