インターネットサービスプロバイダ(ISP:Internet Service Provider)とは、公衆通信回線などを経由して、契約者にインターネットへの接続サービスを提供する事業者のことです。単にプロバイダと略して呼ばれることもあります。
ISPは、インターネットに接続するための基幹回線網を自社で構築・展開するか、あるいは通信事業者から借り受けて、契約を結んだ個人や法人顧客にインターネットへの接続サービスを提供します。
インターネットは、ISPのネットワーク同士が相互に接続し合っている巨大なネットワークで、以下のように構成されています。
【インターネットバックボーン】
米国がインターネット発祥の地であるという背景から、米国の大手ISP群を中心に主要国の大手ISPが加わって、世界的なバックボーンネットワークが形成されています。これをインターネットバックボーン(Internet Backbone)と呼びます。
インターネットバックボーンの役割は、海底ケーブルなどを介して、大陸間、国家間にまたがって各国の基幹ISPを相互接続して、大容量データの経路を確保することです。
【一次ISP】
各国の基幹ISPを一次ISPと呼びます。各国の国内でも一次ISP同士がインターネットエクスチェンジ(Internet Exchange:IX)を介して相互接続して、国内におけるバックボーンネットワークが形成されています。
一次ISPはこのバックボーンネットワークを構成するとともに、末端利用者への全国的なサービス展開をしています。
【二次ISP、三次ISP】
一次ISPに直接、あるいは地域IXと呼ばれるローカルなインターネットエクスチェンジを介して、相互接続しているISPを二次ISPと呼びます。同様に二次ISPの配下で相互接続しているISPを三次ISPと呼びます。ISPはこのように階層構造を形成しています。
地域IXを経由せずに、直接上位のISPと接続する場合は複数の上位ISPと接続していることもあります。
一次、二次、三次のISPからは、専用線や公衆回線(光ケーブル、電話回線網、携帯電話網、CATVなど)を介して、それぞれの末端利用者に繋がる構造になっています。
一般に、下位になるほど、サービス提供の範囲(地域や業態など)が限られています。
インターネットバックボーンを形成しているISPのことをTier 1(ティアワン)と呼びます。
末端利用者のパソコンから、世界のどこに置かれているかわからないWebサーバにアクセスする場合を考えてみましょう。
接続しているISPでは自身のネットワーク内でしか経路がわかりませんので、より上位のISPに経路情報を渡して経路を探してもらいます。そこでもわからなければさらに上位のISP、という具合に伝って、最終的には、Tier1のISPが構成するインターネットバックボーンに経路情報を渡して、経路の決定を委ねます。
Tier1のISPは相互相続していて、自身に集まってきた経路情報を交換し合っているので、インターネットの全経路情報(フルルート)はここで決定します。
決定したフルルートは、有償で下位のISPに渡され、最終的に末端利用者のPCに戻ってきます。
Tier1のISPは、インターネットの全経路情報(フルルート)を購入しないで入手できるプロバイダということができます。
この定義に基づくTier1のISPは現在、以下の16社です。(出典:wikipedia「Tier 1 network」)
ISP名 | 本社所在地 | 旧所有者、備考 |
AT&T | 米国 | |
CenturyLink | 米国 | Level 3、Qwest、Savvis、Global Crossing、TW Telecom、Exodus |
Deutsche Telekom Global Carrier | ドイツ | |
GTT Communications | 米国 | Tinet、nLayer、Hibernia Atlantic、Interoute |
KPN International | オランダ | |
Liberty Global | イギリス | |
NTT Communications | 日本 | Verio(2000年NTT Communicatons Americaが買収) |
Orange(OpenTransit) | フランス | |
PCCW Global | 香港 | |
Sprint | 米国 | (2012年ソフトバンクグループが買収) |
Tata Communications | インド | Teleglobe |
Telecom Italia Sparkle (Seabone) | イタリア | |
Telxius | スペイン | (Telefónicaの子会社) |
Telia Carrier | スェーデン | |
Verizon Enterprise Solutions | 米国 | UUNET、XO Communications |
Zayo Group | 米国 | AboveNet |
日本では、以下の4社が基幹ISP(一次ISP)として、IXを介して相互接続して、バックボーンネットワークを形成しています。
主要IXには以下の3つが挙げられます。( )内は拠点が設置されている地域です。おわかりのように、利用者(人口)の多い地域、特に東京に集中していて、障害時のリスク分散や地域内の効率的なトラフィック交換が十分なされていないという状況です。
地域IXは、本来上記懸念を解決するためのものですが、大手ISP(一次あるいは二次ISP)はそれぞれ全国をカバーしていて、敢えて地域IXに接続することのメリットも乏しいことからあまり参加していません。結果として、地域IXは中小ISP同士で地方から東京への高額な通信回線を共同購入することが目的になってしまっているようです。
家庭や企業などでインターネットを利用するには、加入者宅からISPまでの接続回線(これをラストワンマイル、あるいは足回りと呼びます)と、ISPが提供するサービスの利用契約の締結が必要です。この実現には以下の3通りの方法があります。
ISPへの接続回線としては、大きく分けて、光回線、電話回線(ADSLなど)、携帯電話網(WiMAXを含む)、ケーブルテレビ(CATV)などがあります。
日本では通信回線の事業者の多くが直接ISPサービスを提供するか、特定のISPを推奨しています。
主な通信回線事業者とその回線を利用している主なISPを下表にまとめました。
回線種別 | 主な会社 | 回線サービス名 | ISPサービス名 |
光 回線 |
NTT東日本・NTT西日本 |
フレッツ光 |
フレッツ光に対応してるISP(OCN、Yahoo!BBなど)と別契約 |
フレッツ光回線の卸売 (光コラボレーション) |
OCN光、ドコモ光、ソフトバンク光、NURO光、Biglobe光、nifty光、So-net光プラス、楽天ひかり、TEPCOひかり など | ||
KDDI (地方の足回りはNTTに委託) |
auひかり、コミュファ光(中部電力) |
au one net |
|
auひかり回線の卸売 |
Biglobe光 auひかり、@nifty auひかり、So-net auひかり/So-netコミュファ光、Asahiネット auひかり |
||
電力会社系 | eo光(関西)、MEGA EGG(中国)、Pikara光(四国)、BBIQ(九州)など | eo光ネット、EGG光ネット、Pikara光、光インターネットBBIQ | |
電話回線 | NTT東日本・NTT西日本 |
(フレッツADSL:新規受付終了) |
(フレッツADSLに対応してるISP(OCN、Yahoo!BBなど)と別契約) |
電話回線の卸売 |
Yahoo!BB ADSL、Biglobe ADSL、@niftyなど(いずれも新規受付終了) | ||
携帯電話網 | NTTドコモ |
NTT docomo |
NTT docomo |
docomo携帯電話網の卸売 |
OCNモバイルone、mineo Dプラン、IIJmio、BIGLOBEモバイル タイプD、楽天モバイル、LINEモバイル、nuro mobileドコモ回線、AEON Mobile、DMMモバイル、u-mobile、b-mobile など多数 | ||
au(KDDI) |
au mobile |
au mobile | |
au携帯電話網の卸売 |
UQ Mobile、mineo Aプラン、IIJmioタイプA、BIGLOBEモバイル タイプA、楽天モバイル au回線 など | ||
ソフトバンク | softbank mobile、Y!mobile | softbank mobile、Y!mobile | |
softbank携帯電話網の卸売 | LINEモバイル、mineo Sプラン、nuro mobileソフトバンク回線、u-mobile s、b-mobile s など | ||
UQコミュニケーションズ |
UQ WiMAX |
UQ WiMAX | |
WiMAX網の卸売 |
Broad WiMAX、GMOとくとくBB WiMAX 2+、Biglobe WiMAX 2+、So-netモバイル WiMAX 2+ など | ||
CATV | CATV会社系 | ジュピターテレコム(J:COM)、近鉄ケーブルネットワーク(KCN) など | J:COM NET、Kブロードインターネット など |
ISPが提供するサービスの基本は、インターネットへの接続を安定的に実現することです。それゆえ、大容量のデータ通信を支える能力の維持に加え、ネットワークセキュリティの確保が、利用者に提供する付帯的なサービスにも増して、重要になっています。セキュリティ対策としては、サイバー攻撃などへの対処に加え、利用者の不正・不法または違法な行為への対処も求められています。
主な付帯サービスとしては、以下のようなものがあります。
【電子メール】
一つの契約で最低1つのメールアカウントは無償で提供し、複数のメールアカウントの付与は有償という場合が多いようです。
メールボックスに割り当てられる最大容量や、送受信可能な1通あたりのメールサイズなどは、ISPによって違いがあります。
【セキュリティ対策】
電子メールのウイルス対策・迷惑メール対策などのセキュリティ対策を有償または無償で提供しています。
【ホームページやブログなどのためのサーバスペースの貸与】
一定量のサーバスペースを有償または無償で提供しています。追加費用を払えば増量できることが多いようです。サーバの負担やセキュリティの観点から、CGIなどの利用は制限していることが多いようです。
【ポータルサイトでのコンテンツ提供】
大手ISPでは、ニュースなどの各種の情報を無償で提供しているほか、音楽やビデオなどのコンテンツも有償あるいは無償で提供しています。
【ブロードバンド回線付加サービス】
光回線やケーブルテレビでの接続の場合、IP電話、Wi-Fiルータ、光ケーブルテレビなどの機能を有償で提供しています。
その他、固定IPサービス、VPNサービス、独自ドメイン取得代行サービスなど、より高度な利用者向けのサービスを提供しているISPもあります。