携帯電話やスマートフォン、タブレットなどで、移動体(モバイル)通信網経由で、音声通話やデータ通信を行うことができるのは、端末機の中にSIM(シム)カードと呼ばれるものが装着されているからです。
スマートフォンやタブレットには通常、無線LAN(Wi-Fi)子機の機能が内蔵されていますので、SIMカードが装着されていなくても、社内・家庭内、各種フリーWi-Fiスポットなどの無線LAN環境で、無線LANアクセスポイント(親機)と接続すれば、データ通信を行うことができますが、モバイル通信網経由での音声通話やデータ通信はできません。
Wi-Fi機能を内蔵していない旧来型の携帯電話は、SIMカードが装着されていないと音声通話もデータ通信もできなくなってしまいます。
SIM(Subscriber Identity Module)カードには、ICチップが内蔵されており、通信事業者が加入者を特定するためのID番号(IMSI:International Mobile Subscriber Identity)が記録されています。このID番号と電話番号を結びつけることで、その通信事業者経由での音声通話やデータ通信ができるのです。
携帯電話やスマートフォンの端末機そのものにはこのID番号や電話番号は関わりません。SIMカードを抜き差しすることで、電話番号を他の携帯電話機やスマートフォンに移したり、ひとつの端末機で複数の電話番号を切替えて使用することができます。
SIMカードは以下のような働きをします。
(以下の説明では、代表してスマートフォンで説明しますが、タブレットや携帯電話などでも同じです。)
スマートフォンの回りで飛び交っている様々な電波の中から、当該通信事業者の電波を識別します。電波には通信事業者コード「PLMN(Public land mobile network)」という情報が含まれているのですが、SIMはその情報を頼りに「自分がどの電波を使えば良いのか」ということを判断しているのです。
また、当該通信事業者のアンテナ経由でその先にある「交換機」との間で通信を行う際には、通信データは暗号化されます。SIMは端末側での暗号化と複号化の処理を行います。
スマートフォンを使うためにはSIMカードの装着が必須なのですが、「そんなカードを自分で装着した覚えはない」という人も多いことと思います。多くの場合、新しくスマートフォンを購入したタイミングで、ショップのスタッフがSIMカードを装着してから渡してくれるので、SIMカードの存在をあまり意識することがないのです。
端末によって装着場所は異なりますが、SIMカードはスマートフォンでの通信に欠かせないものなので、簡単には抜き差しできないようになっています。大概の電池交換可能な端末では、電池を取り外さないとSIMカードの抜き差しができないような構造になっています。電池交換ができない端末では、細いピン(SIM取り出し用ピン。安全ピンやゼムクリップでも細いものであれば代用可)を差し込んで収納ケース(枠)を取り外すようになっています。
【便利知識】
スマートフォンやタブレットのSIMカードの装着場所は通常1つだけですが、2つ装着できるものも市販されています。これをデュアル(Dual)SIM対応型のスマートフォン(あるいはタブレット)といいます。
デュアルSIMとは、2つのSIMカードを1台の端末に装着して、2つの電話番号を使い分けたり、データプランを選んで使うことができるというものです。下例のような使い分けをする人が多いようです。
デュアルSIMには大別して以下の4つの規格があります。
日本で発売されているデュアルSIM対応の製品は、DSDSかDSDVが多いようです。
DSSS | Dual SIM Single Standby | 通信できるのはいずれかのSIM経由だけで、手動で使用するSIMを切り替える方式の規格 |
DSDS | Dual SIM Dual Standby | 搭載した2つのSIMを手動で切り替えることなく、通話の着信やデータの送受信が行える方式の規格。通話用のSIMに4Gを使用すると、もう一方のSIMは3Gまたは2Gでしか使用できないという制約がある |
DSDV | Dual SIM Dual VoLTe | 2つのSIMを4G(VoLTE)として利用することができ、同時に待ち受けをすることが可能な方式の規格 |
DSDA | Dual SIM Dual Active | 一方のSIMで通話中の場合でも他方のSIMで通信ができるという、両方のSIMがアクティブな状態を維持できる方式の規格。DSDSと同様、通話用のSIMに4Gを使用すると、もう一方のSIMは3Gまたは2Gでしか使用できないという制約がある |
SIMカードのサイズは3通りあります。技術が進化するにつれ、だんだん小型なものにシフトしています。
スマートフォンの最新機種では、ほとんどがナノを採用しています。
SIMカードの種類 | サイズ |
標準SIM(miniSIM) | 幅25mm×高さ15mm×厚み0.76mm |
マイクロSIM(microSIM) | 幅15mm×高さ12mm×厚み0.76mm |
ナノSIM(nanoSIM) | 幅12.3mm×高さ8.8mm×厚み0.67mm |
【便利知識】
後述するSIMフリーの端末などで、格安SIMを利用することもあると思います。
格安SIMは1枚の台紙から標準、マイクロ、ナノの3種類のサイズのいずれにでも合わせて取り外しができるような形で提供されることが多いです。このスタイルのものをマルチSIMカードと呼びます。
どのサイズで取り外しても、ICチップ部分は共通で、台紙部分の大きさが異なるだけです。
【便利知識】
ICチップ部分が共通なので、ナノSIMからマイクロSIM、あるいは標準SIMへ、マイクロSIMから標準SIMへ、台紙部分を変換するアダプターが市販されています。
逆に、大きなサイズから小さなサイズに変換するSIMカッターというものを市販されていますが、ICチップ部分がずれたり、傷つけたりして利用できなくなるおそれがありますので、あまりお勧めできません。
SIMロックとは、特定通信事業者のSIMカード以外は利用できないように制限されているということを言います。つまり、同じ通信規格であっても、SIMロックされているスマートフォンは、そのままでは別の通信事業者に切り替えて使い続けることができません。スマートフォンを買い替えるか、元の通信事業者に依頼して、SIMロックを解除してもらわなければなりません。
日本では、携帯電話やスマートフォンなどについては、通信事業者がメーカーから端末機を買い取って、端末代金と通信利用料をセットで販売するという販売方式が採用されおり、今でもこの方式が主流です。
装着するSIMはその通信事業者の使用周波数や通信方式などに合わせて最適になるようカスタマイズしています。他社製のSIMでは性能が十分発揮できないおそれがあることと、一定期間の利用を前提に(これにより通信利用料収入を確保)し、端末代金を安価に設定するなどの販売施策がとられ、一定期間を経たのちも、安易に通信事業者を切り替えられないように、端末にはSIMロックをかけていました。
総務省は、諸外国に比べて携帯電話の通信料が高額で家計への負担になっていること、端末と回線の組み合わせが縛られて選択の自由度が低く、利用者の利便性が損なわれていることなどを背景に、2015年5月、通信業者にSIMロック解除への対応を義務付けました。通信事業者は、一定期間経過していなければならないなどの条件付きで、原則無料でSIMロック解除に応じてくれますが、ショップに持ち込むと有料になることもあります。
2019年9月には各社がかつて販売した中古の端末機についてもSIMロック解除を義務づけられる予定です。
一方、SIMフリーとは、SIMロックがかけられていない、つまり、通信規格に対応していれば、原則としてどこの通信事業者のSIMカードでも利用できる端末機であるという意味です。
諸外国では、SIMロックを認めていない(韓国、台湾、香港など)、あるいはSIMロックを認めている場合でも一定期間経過後はSIMロック解除を義務付けている(欧米各国)というところが多いようです。
格安SIMカードを略して格安SIMと呼びます。格安SIMとは、MVNOと呼ばれる事業者が大手通信事業者に比べて低価格で提供しているSIMカードのことです。
MVNO(Mobile Virtual Network Operator、仮想移動体通信事業者)は、自社で無線基地局などの通信設備を持たずに、大手通信事業者(MNO:Mobile Network Operator)から回線をまとめて借り受け、それを小口に分けて利用者にサービス提供しています。
MVNOは2018年12月末現在で983者(内、MNOから直接回線の提供を受けている会社は521者)で、移動体通信契約数の11.5%を占めています(出典:総務省「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表」2019年3月29日)。
日本のMNOは、現在、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの3社(2019年10月から楽天も加わる予定)ですが、ほとんどのMVNOは、NTTドコモから回線を卸してもらっているのが現状です。ただし、最近はKDDI(au)の回線やソフトバンクの回線にも対応しているMVNOが増えてきました。
MVNOが提供するSIMが、MNOに比べて格安なのは、主に以下の理由によります。
格安SIMの利用プランはMVNOによって様々ですが、基本的に、データ通信のみ、データ通信+ショートメッセージ、データ通信+音声通話(ショートメッセージも可)の3種類に分かれ、それぞれ、月間(または日間)での高速通信の最大容量別に月額料金が定められています。
データ通信については、最大通信速度や制限時の通信速度、容量追加の可否などを勘案する必要がありますが、最大通信速度は理論値(ベストエフォート)が提示されているだけで、実際の速度は契約者数や通信の混雑具合によって大きく左右されます。サンプル的に比較した結果を紹介しているサイトの情報等を参考にするしかないのが実情です。
音声通話については、MNOの携帯電話・スマートフォンであれば、同じ事業者間の通話は無料だったり、かけ放題プランがあったりして、あまり料金を気にせずに通話ができますが、格安SIMの場合は、基本的には「20円/30秒」の通話料がかかります。そのため電話を多くかける人は結果的にMNOの時よりも高くなってしまうというおそれもあります。ただ、近年はかけ放題オプションや通話定額オプションなどのサービスを提供する格安SIMが増えてきました。電話の利用が多い方は通話オプションがある格安SIMを選んで、サービスに申し込むことをおすすめします。
格安SIMのメリット・デメリットを纏めると、以下のようになります。
メリット
デメリット
プリペイドSIMは、その名の通り、前払い型のSIMカードで、使用できるデータ通信量や期限があらかじめ決まっていて、原則、使い捨てであることが特徴です。ただし、プリペイドSIMの中には、チャージできるタイプのものもあり、使用できるデータ通信量を使い切った時や、期限が過ぎた時に、チャージすることで繰り返し使うことができます。また、通信事業者によっては、月額プランなどに切り替えできるものもあります。
日本国内で入手できるSIMカードは通常、通信事業者からの貸与であり、解約の際には返却する必要がありますが、プリペイドSIMの場合は、最終使用時から一定期間の後に失効して発信も着信もできなくなるため、解約手続きは不要です。失効する期限は、最終使用日から半年程度の場合が多いようです。
日本国内用のプリペイドSIMはほとんどがMVNOが発売するものです。NTTドコモが訪日外国人旅行者向けに販売をしていますが、2019年9月末でこのサービスを終了すると発表されました。
プリペイドSIMのメリット・デメリットとしては以下のことが挙げられます。
メリット
デメリット
渡航先で手持ちのスマートフォンやタブレットでデータ通信を行う場合、通常はローミングサービスを利用することになりますが、思いのほか高額になってしまうことがあります。
ローミング (roaming) とは、携帯電話やスマートフォンなどのモバイル端末による音声通話やインターネット接続のデータ通信サービス等において、事業者間の提携により、利用者が契約している通信事業者のサービスエリア外であっても、提携先の通信事業者のエリア内にあれば、元の事業者と同様のサービスを利用できるというものです。
ローミングによるデータ通信や通話は、パケット定額やカケホーダイなどが適用されず、1パケットごとに○円、通話30秒ごとに○円というような従量制課金に基づいて計算されてしまいます。音声通話については電話を掛けた時だけでなく、電話を受けた時にも通話料がかかります。そのため、知らずに使っていると、帰国後に莫大な利用料が請求されることもあるのです。
MNO各社(NTTドコモ、KDDI(AU)、ソフトバンク)は、それぞれ海外パケット定額サービスを提供していますので、それを利用すると上限が決まっているので安心でしょう。ただ、料金は少し高いと感じるかもしれません。
世界各国の中には、国外からの旅行者向けに、割安のプリペイドSIMサービスを提供しているところが少なくありません。現地の空港のショップなどで旅行者向けのSIMを入手して、SIMフリー(あるいはSIMロックを解除した)スマートフォンのSIMを入れ替えて使うと、より安価に、安心してデータ通信を行うことができます。(帰国の際に、元のSIMに戻すことをお忘れなく)
日本でも、訪日外国人旅行者向けに、NTTドコモとMVNO数社が、旅行者向けプリペイドSIMを、空港や家電量販店、インターネット経由で販売しています。
クラウドSIMとは、ソフトウェアによって仮想化されたSIMカードの一種です。その名の通り、本来はプラスチックのSIMカードに入っている回線契約や、通信に必要な固有番号情報などの内容が、クラウドサーバ上にあり、必要に応じて端末にSIM情報をダウンロードし、使えるようにするものです。バーチャルSIM、あるいはeSIMと呼ばれることもあります。
クラウドSIM対応のスマートフォンやモバイルルータには、クラウドサーバに所在地を知らせてSIM情報をダウンロードする通信のためだけのSIMカードが装着されています。サーバには複数国の通信情報が管理されており、仮想SIMカードを所在地に応じた最適な通信情報に書き換えるのです。
クラウドSIMとは、一つの端末で、世界各国の通信サービスをクラウドSIM技術を使って利用できるようにしたものです。
日本では、クラウドSIM対応のスマートフォンは、現在MAYA SYSTEMの「jetfon」(FREETELブランド)という機種だけですが、クラウドSIM対応のモバイルルータは数種類発売されています。
クラウドSIMは音声通話には対応していません。またショートメッセージも扱えません、あくまでデータ通信のみです。
通信料は、各社のプランでまちまちですが、大手の海外パケット定額サービスよりも安く、現地のプリペイドSIMカードよりも若干高い、というところです。現地のプリペイドカードを購入したり、装着したりする手間を考えると、相応の価値があるように思われます。
【便利知識】
H.I.S.モバイルが「変なSIM」という海外渡航者向けのクラウドSIMを販売しています。これは既存のSIMカードの上に貼り付ける形式の一種のクラウドSIMで、使用中のスマートフォンがアプリでの切り替えで、クラウドSIM対応型のスマートフォンになったり、元々のSIMが有効となる従来のスマートフォンに戻したりできるものです。「変なSIM」カード本体が2,000円弱高速通信が1日最大200MBまでという制限がありますが、1日当たりの利用料が500円と、大手の海外パケット定額サービスよりも安いです。