パソコンやスマートフォンあるいは携帯電話などをお持ちの方で、電子メールを使って他の人とメッセージや情報のやりとりをしたことの無い人はいない、といっても過言ではないでしょう。インターネットの利用において、電子メールはWebページの閲覧と並んでもっとも良く利用されている機能のひとつです。
ただ、電子メールはどのような仕組みになっているか、をご存じの方はあまり居られないかと思います。
ここでは、電子メールの生い立ち、仕組みなどを解説します。
電子メール(Electronic mail)は、eメール(最近ではさらに略して、単にメール)とも呼ばれ、広義の定義としては「コンピュータ・ネットワークを介して行うメッセージ通信」ということになります。昔は電子郵便などと呼ばれることもありました。
したがって、インターネットを介しての狭義の電子メール(eメールと呼ぶ時は、この狭義の意味で使われることが多いです。以下、eメールと記述する場合は、この狭義の意味での電子メールを指します。)は無論、携帯電話会社が提供する携帯メール(キャリアメール)や携帯電話番号を宛先として短い文章を伝達するSMS(Short Message Service)も、広い意味では電子メールなのです。
そもそもコンピュータ・ネットワークは、メッセージを電子的に伝達する仕組みとして発達・発展してきたわけで、通信およびコンピュータの進化とともに、電子メールも進化を遂げてきました。
電子メールの起源は、1960年代初頭に開発された、タイムシェアリングシステム(TSS)の利用者同士が相互に通信する仕組みでした。1台の大型コンピュータのハードディスクに、ユーザ毎に電子メールを受信するためのメールボックスを用意しておき、発信者は受信者のメールボックスに書込み、受信者が自分のメールボックスを開いてメールを読むという方式で、同一のコンピュータに接続した端末同士でしかやりとりできない仕組みでした。
1969年に運用が始まったARPANET(インターネットの前身)では、複数のコンピュータ・ネットワークが相互接続され、1972年にコンピュータ間で電子メールを送受信する仕組みが開発されました。現在でもメールアドレスとして「@」の文字が使われていますが、他のコンピュータの相手に送るときに「@」で区別したことが始まりです。
1975年には、返信、転送、フォルダによる仕分けなどの機能と、複数の相手先に対して電子メールを配信するメーリングリストの機能が開発されました。
やがてパソコンが普及し始め、1980年頃からは一部のユーザを中心にパソコン通信が広まり、掲示板サービスなどとともに、電子メールサービスが利用されました。米国のCompuServeを皮切りに、日本ではASCII-NET、PC-VAN、Nifty-Serveなどの商用サービスが提供されましたが、基本的にはそれぞれのパソコン通信サービス内に閉じた範囲でしか送信できませんでした。
1990年代半ばに、Windows 95のパソコンが出現するとともに、インターネットの商用利用が本格的に始まると、国内、海外を問わず安価かつ簡単にパソコンでの電子メールの送受信が可能となり、eメールの利便性が飛躍的に高まりました。
企業等においては、まず部署ごとに、やがて一人1台という形でパソコンが展開され、家庭にもパソコンとインターネット接続のためのモデムなどが普及していきました。企業等では各社固有のメールサーバが用意され、部署や個人ごとのメールアドレスが管理されていることが一般的です。
家庭のパソコンでのeメール利用は、インターネットプロバイダに加入してメールアドレスを取得する(有料)ことが一般的ですが、Hotmail(現Outlook.com)(マイクロソフト)、Yahoo!メール(ヤフー)、Gmail(グーグル)などの無料のeメールサービスが種々誕生し、それらのいずれかを利用する人が多くなっています。
同じく、1990年代半ば頃からは、第2世代の携帯電話が普及し始め、携帯電話での電子メール利用が始まりました。海外ではSMSが、日本ではショートメールサービス(一種のSMS)と携帯メール(キャリアメール)が広まりました。
スマートフォンが普及した現在では、自宅のパソコンと同じメールアドレスでeメールを使うことが主流になっていますが、メッセージの到達確認が瞬時にでき、一定量までは無料というサービスも受けられるSMSも広く使われています。
メールソフトで文章を書いて「送信」をクリックすると、そのメッセージが相手に届くわけですが、メールソフト同士が直接対話しているわけではありません。
郵便に例えるとわかりやすいと思います。手紙をポストに投函するとその手紙は郵便局員により集配され、宛先近くの郵便局に転送されて、郵便局員によりその宛先の郵便受けに配達されます。受け手は郵便受け取りに行って、その手紙を読むという流れですよね。
手紙をメール、ポストを送信ボックス、郵便局をメールサーバ、郵便受けを受信ボックス、郵便局員をメールサービスに置き換えてみましょう。
メールを送信ボックスに投函すると、そのメールはメールサービスにより集配され、宛先近くのメールサーバに転送されて、メールサービスによりその宛先の受信ボックスに配達されます。受け手は受信ボックスを見て、そのメールを読むということになります。
メールを送信ボックスに投函することと、受信ボックスを見てメールを閲覧することの役目はパソコンなどにインストールされているメールソフト(メーラー)が担っています。
メールサーバは、eメールのデータ送受信を管理するコンピュータのことです。手紙でいえば、郵便局にあたります。
郵便局は地域ごとの分担があり、手紙はいくつかの郵便局でリレーされていきます。同様に、メールサーバもそれぞれ担当範囲を持っていて、差出人は自分の担当サーバにメール送信を依頼し、それが受取人の担当サーバまで転送されていくのです。
送信元のメールソフトから、メールを自分のメールサーバに送り、さらに相手先のメールサーバまで転送する仕組みは、SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)と呼ばれるプロトコルに基づいており、メールサーバの送信部分のことをSMTPサーバと呼びます。SMTPサーバは、自分のメールを相手に送ってくれる「地元郵便局」のことだと考えればよいでしょう。
郵便の場合、手紙は自分の郵便受けに配達されるだけで、手紙が届いたことを知るためには、ときどき郵便受けを見に行かなければなりません。eメールの場合でも同じように、届いたメールは郵便受け(受信ボックス)に投げ込まれ、保管されます。受取人は自分で郵便受けをチェックし、メールがあれば取り出して読むことになります。
受信ボックスに届いたメールを取り出す仕組みには、POP(Post Office Protocol)とIMAP(Internet Message Access Protocol)の2通りのプロトコルがあり、メールサーバの受信部分をそれぞれPOP3(POP Version3)サーバあるいはIMAPサーバと呼びます。
POPは、サーバにあるメールをパソコンなどの端末にダウンロードして、端末上でメールを管理する仕組みです。通常は、メールソフト立ち上げ時の送受信機能と定期チェック機能によって、未読のメールを受信ボックスフォルダなどに取り込むことが多いと思われますが、メールソフトの「すべてのフォルダーを送受信」(Outlook)などのアイコンをクリックして、その時点での取り込みを指示することもできます。
基本的にはダウンロードすると、サーバ上のメールは削除されます。(メールソフトの設定でサーバ上にメールを残すこともできます。)割り当てられているメールボックスの最大容量が小さいなどの理由で、以前はこの方式が主流でした。
一方、IMAPは、メールサーバ上でメールを管理する仕組みで、パソコンなどの端末のメールソフトには、サーバにあるメールをダウンロードせずに表示させるだけの受信方式です。スマートフォンの普及で、自宅に置いてあるパソコンのメールアドレスで、外出先でもeメールを見たり、送ったりするニーズが増して策定されました。IMAPであれば、サーバ上でメールを管理しますので、複数の端末での利用に優れています。また、開封状態等も共有されますので、メールを一元管理することができます。IMAPは便利な機能を備えていますが、メールを見たり削したりするには、常にサーバと通信を行う必要があり、メール数が多くなるとメールの一覧を取得するだけでも時間がかかります。また、容量の上限に達すると新しいメールを受信することができなくなりますので、定期的に不要なメールを削除する必要があります。
郵便局は住所をたよりに手紙を配達します。同様に、メールサーバもeメールアドレスで相手を識別し、メールを届けています。
eメールアドレスは、xxxxxxxx@yyyyyyyy(例:yamada@a1.example.co.jp)という形式で、「@」マークをはさんだ二つの部分からなり、このマークの右側(yyyyyyyy)がメールサーバ名、左側(xxxxxxxx)が利用者のアカウント名(登録名)にあたります。
送信側のメールサーバは、アドレスの右側を見て、そこに書かれた受信者のメールサーバを呼び出して、メールを転送します。そして受信サーバは左側のアカウント名を確認し、適切な受信ボックスにメールを配達します。アドレスを二つの部分に分けることで、送信側と受信側の役割をうまく分担しているのです。
メールサーバ名は、いくつかの文字列をピリオドでつないで構成されています。一般的には、WebページのURLでもおなじみのドメイン名と同じですが、ドメイン名の前にメールサーバの識別子が置かれている場合があります。上記の例でいえば、a1がメールサーバの識別子、example.co.jpがドメイン名で、exampleがプロバイダ・会社・組織などの識別子、coがセカンドレベルドメイン、jpがトップレベルドメインです。
パソコンやスマートフォンでメールを送受信・閲覧するには、通常はメールソフト(メールアプリ)を使います。メールソフトは、電子メールクライアントとか、メーラーとも呼ばれます。
メールソフトの基本的な機能は、電子メールの作成・送信・受信、受信した電子メールの管理と閲覧などで、さらにネットニュースの閲覧・投稿を行うニュースリーダ機能、RSSなどを閲覧するフィードリーダー機能、スケジュール管理機能などが統合されたものもあります。
メールソフトで電子メールの送受信を行うには、通常、受信サーバ(POP3、あるいはIMAP)、送信サーバ(SMTP)のサーバ名 とアカウント(メールアドレス、ログインID、パスワード)、使用する通信プロトコルなどをあらかじめ設定しておくことが必要となります。
主なメールソフトには以下のようなものがあります。
【パソコン】
Windowsの標準メールソフト
Windows95:Microsoft Exchange
Windows XP:Outlook Express
Windows 7:Windows Live Mail(標準ではないが、プレインストールされていた場合が多い)
Windows 10:Windows 10 メールアプリ
Microsoft Officeでの電子メール機能
Outlook 2016/2019 電子メール・予定表・仕事管理・メモ機能を備えた個人情報管理ソフト
その他
Becky! Internet Mail(有料) 1996年に提供開始された古株のメールソフト
Thunderbird(無料) Windows、Mac、Linuxなど、OSを問わない
【スマートフォン/タブレット】
標準アプリ
iPhone/iPad:ios標準メールアプリ
android:android標準メールアプリ
その他
Gmailアプリ(無料) android用、ios用(android端末には標準でインストールされている)
Airmailアプリ(有料) Mac OS/ios専用
Webメールとは、インターネット経由で接続し、Webブラウザ上でメール送受信と閲覧ができるシステムあるいはサービスです。パソコンやスマートフォンなどの端末にメールソフトがインストールされていなくても、Webメールのサービスが提供されていれば、インターネットへアクセスしてWebブラウザ上でメールを使うことができます。
Webメールは、Yahoo!メール、Gmail、Outlook.comなどのフリーメールサービスで提供されています。また、インターネット接続サービスプロバイダのメールサービスでも、利用者の利便性を考慮してSMTP、POP/IMAPなどとともに、提供されています。
パソコンなどにメールを保存しないため、端末をリプレイスした場合でもデータの移行が不要という長所がある反面、障害やメンテナンスによってメールサーバが停止したり、ネットワークに接続できなかったりした場合は、受信済みのメールの閲覧ができません。これは同じくサーバ側にメールを保存するIMAP方式と同様の短所といえます。
長くなりましたので、携帯メールとSMSの詳細については、「携帯メールとSMS」のページで解説します。